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子どもが犠牲になっている? 津川 典子

 「私が働くことで、子どもを犠牲にしているのでは・・・」そのような相談を受けることがあります。
 とても大切な仕事を責任をもってされているお母さん達からです。
 なぜかお父さんからこのような相談を受けたことはありません。
 
 私が保育園で働いていた時、預けられたことが悲しすぎて、保育者と一緒に事務所にやってきた子どもがたくさんいました。
 「ママがいい~!」という子ども。「そうだね。ママがいいね。」と保育者は子どもの気持ちに寄り添います。
 そうやって寄り添ってもらうだけで気持ちが切り替わり、自分の好きな遊びに出会って遊び始める子どももいます。
 
 しかし、子どもによっては、それでも気持ちが切り替わらない時もあります。
「じゃあ、あなたの気持ちを手紙にしてあげよう」と、子どもの言葉を聞き取り、手紙にすると、その手紙を大切にかばんにしまっていた子どももいました。
 あまりひどく泣く時は、「ちょっとお母さんに電話してあげよう」と、お仕事中ではあるものの、電話をさせてもらうこともありました。涙で濡れた顔で、受話器から聞こえるお母さんの声に耳を傾け、お母さんの声に合わせて、声を出さず、頭だけをうんうんと振っている子どもの姿もありました。
 また、仮病を使ってお迎えに来てもらおうと、知恵を働かせている子どももいました。
 
 そのような色々な子どもの姿をみながらも、「お母さんが働いているから、子どもが犠牲になっている。」とは、あまり感じませんでした。
 なぜなら、子どもが思いっきり自分の「いやだ」という気持ちを表現できているからです。そしてその表現をお母さんたちが受け止めようとしているからです。
 
 たとえば、手紙を受け取ったお母さんが、子どもと話をしたり、ぎゅっと抱っこしてくださいました。
 忙しい仕事中でも、周りの人に事情を言って、ほんのちょっと電話に出てくださったお母さんたちもたくさんいます。
 また、「きょうはうちの子の誕生日なので、保育園を休みます」と、お休みの電話をくださる方もいらっしゃいました。
 
 お母さんが「ごめんね」とお迎えにこられるのではなく、「ありがとう」と迎えにこられた時、子どもは「私がお母さんを助けてあげているのよ。」というような、誇らしそうな表情で、帰っていくような気がするのです。
 
 
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